美術展レポ百番勝負-001-岡田美術館「金屏風展」②
さて、今回、私が鑑賞して「やられたー」と心打たれたマイベスト3を発表させていただきます。浅学非才の身ではありますが、ここはアートとの出会いということで直感で選びました。
やっぱり光琳はいい!
「金屏風展」のベスト1 尾形光琳「菊図屏風」
この美術館で見たのは2回目なのですが、やっぱりいい!
屏風の前にじっと座っていると、この画の中に我が身が吸い込まれていくようです。逆・貞子のように、この幽玄の世界に入って行ける気がします。
館長のご説明(うろ憶え)
「光琳のこの屏風はやはり(美術的に飛び抜けて)すばらしいもの。画面の中、左から右へ風が流れ、菊の花が揺れている。菊の茎は緑のものと、ちょっと枯れたような色の2種類があって、枯れた茎に花が咲くわけはないのだが、意匠的にそのような変化をつけたのでしょう」
風の流れを意識して菊の花を追ってみると、本当にふわりとした風が見えるようです。
中央(境目)には白で描かれた池か水たまりがあります。それが右隻と左隻をつないでいる。
菊の花びらは細かく1枚1枚、枝葉の緑のラインも金色で詳細に描かれています。
「光琳菊」という図案があって、それは菊の花をまるっと簡略化したものだそうですが、この屏風絵では、花びらを胡粉をふんだんに使って盛り上げるように描いて、立体的になっていました。
この屏風ではないようですが、光琳の別の白菊屏風について、1903年の文献がありました。
「あたかも半肉彫刻のごとき技巧を表わし、(中略)優雅ー麗の妙をーにするは光琳の特長なり」。
たしかに菊の花はレリーフのようでした。
しかし、この屏風絵、重要文化財にもなっていないということで、光琳の作品の中では評価が高くないほうなのかもしれない。
一見、地味というかさらっとしすぎているんですよね。「燕子花図」のようにパキッとしたデザイン性もないし、「紅白梅図」のように「な、なんだこれは…」と思わせる奇想のひらめきもないし、ただ、初夏に青々とまっすぐに咲き誇る燕子花(かきつばた)ではなく、秋の野に咲く繊細な印象の花だから、花に合わせてこの構図を考えたんだと思うんですよね、光琳は。
そんなことを考えながら、10分ほど屏風の前に座っていました。優美夢幻という感じでした。
ベスト2 桃山の自由な空気が伝わってくる3品
狩野派「春秋花鳥図屏風」(写真)
長谷川派「網代垣藤花・萩薄図屏風」
作者不詳「競馬図屏風」
の3点あわせ技! すべて桃山時代の作品です。
今回の展示は1室から4室まで時代の古い順に金屏風が並んでいるのですが、1室に入ったときのキラキラな感じは圧巻です。
そこに描かれるのは、ダンスしているかのような鳳凰や、二頭ごとの競馬を楽しんでいる武士、または金地に金色で箔押しのようにして描かれた紅葉。
なんて自由なんでしょう。どの絵からも躍動感が伝わってきます。
戦国は人がすぐに殺されてしまう野蛮な時代でもあったけれど、江戸幕府というかっちりした社会システムができる前、どう生きようが自分の勝手だという気風があって、それが桃山時代の絵に現れているのかなと思いました。
なんだかね、生きていてもうけもん、それだけでラッキー、今の瞬間楽しければ良し。そんな価値観が伝わってくるんですよね。
文明と社会は発達したけれど、いろんな制約がある現代から見ると、まぶしく見える。そういうことかもしれませんね。
ベスト3 動物画の完成者、栖鳳のあまり知られていない屏風絵
竹内栖鳳「松に白鷹・笹に小禽図屏風」
安土桃山→江戸→近代と4室に渡って時代を追って展開されてきた展示の最後のスペースにありました。新しいものだから、金泥を一様に塗った地色もマットに光って美しい、そこに描かれた白い鷹も金地に映えて美しい。
残念ながら写真はありません。
竹内栖鳳は思い描くままに筆で線が引けるような天才的な描写力を持った人ですが、この絵の筆づかいも素晴らしかったです。松の枝がくるんと直角に曲がっている部分なんて、ラフに描いているので下の金地が透けて見えているのですが、それすらもリアリティがあるようで。
白鷹というのはめでたい図案だそうですが、見た瞬間「あ、これ、二条城の山楽の松鷹図だ」と思ったんですね。
世に松鷹の絵はいくらでもあるけれど、まず金屏風に描いているところ、松の枝に止まった鷹の目の鋭さ。幕末に生まれ、明治、大正、昭和の激動の時代を生き抜いた竹内栖鳳も、狩野山楽の松鷹図を見ていたのかしら? と考えてみると、なんと生まれは二条城に近いところだというではありませんか!
実家の魚料理屋は二条城御用達だったそうですが、まさかそこの息子が四の間に入れてもらえることなんてありえなかったでしょう。実際に見たとすれば画家になってからか。
ざっくりいいかげんなことを言うと、この作品は
金地部分(余白)の多い金屏風=琳派のデザイン性
+
白鷹と松=狩野派の技法と雄大さ
をミックスしたものではないか?
と資料などのソースはないのですが、そう思いました。
美術本を読むと、栖鳳はあらゆる名画の模写をし、各派の技法を採り入れた作品を発表して、明治25年ごろには皮肉として「鵺派(ぬえは)」と言われていたそうです。
その頃、発表された作品なのでしょうか(制作年をメモってくるのを忘れました)。
ただ、鵺のように、いろんな流派の継ぎ接ぎというわけではなく、超絶技巧の栖鳳だけに、それらを自分のものにしていて、完成度は高いと思いました。鷹の左隻と雀の右隻をつなぐものが何も描かれていないのも面白いですね。まるで別の絵のようで。
実は10日ほど前、京都駅伊勢丹のギャラリー(京都市美術館)で栖鳳が虎を描いた屏風図「雄風」を見たばかりでした。
この虎はときどき線描が省かれたりしていて、力が抜けていて、今回の金屏風より円熟味がある印象でした。画題としても、虎にソテツの木って、古典絵画にはないものでしょうしね。こちらが画風も統一されて、たどり着いた境地なのかもしれない。
竹内栖鳳は「動物を描けば、その匂いまで描く」といわれた達人であったそうです。たしかにどの動物も生き生きとしている。
「芸術新潮」の9月号の表紙のライオンも栖鳳ですね!
常設展(コレクション展示)では蒼白の屏風絵も!
さて、岡田美術館では、常設展も日本画のところだけ見てきました。
1月とはがらりとラインナップが替わっていて、行った甲斐がありました。
印象に残ったのは
なぜ鬼退治を屏風絵に? なぜ鬼におっぱいある? えーと、鬼を持ち上げているのは桃太郎でOK?
ツッコミどころたくさん。さすが奇想の画家、蕭白です。
しかもこの絵、美術本などに載っていないですよね。わりと最近、三重県から売りに出され、それを岡田美術館が買ったということでしょうか?
蕭白の絵とされているものには贋作も多いそうですが、この訳わからなさ、怖くて怖くて思わず笑っちゃっているような描写、ホンモノだ!と思いました。
「若冲展」で見たのが左隻だけだったので右隻も見られて、これでコンプリートじゃ!
もうね、上手い! いわゆる戯画と呼ばれるジャンルの絵だと思うのですが、ふざけていておとぼけていて、小野小町など女人の描写にも容赦なし。
こんなに自由自在に絵が描けたらそれは楽しいでしょうね。有名な動植綵絵などは若冲も自分の信仰に捧げたものだから相当な緊張感を持って描いていたでしょうが、この人物画は力が抜けて、ほとんど抜けきっていて、見る方もリラックスできました。
3)片岡球子「新雪の富士」
あんまり良いイメージなかったんですよね、珠子って。
いきなり呼び捨てにしてしまいましたが、片岡球子と言えば、赤富士! 新聞広告! リトグラフ販売!!というイメージがあり…。
しかし、今年5月に富山県美術館で見た「立山」がとてもよかったんです。
富士山の絵じゃないからよいと感じたのかなと思ったのですが、今回の赤富士、こちらも思わず足を止めて見入ってしまう絵でした。雪の部分が多くてピンク富士という感じで、すてきな配色でした。
加山又造の「初月屏風」もよかったな。これも同じ昭和40年代の絵、山が赤いんですよね。
曾我蕭白の絵はあまり保存状態は良くないと思いましたが、常設展のこのラインナップも9/29までだそうなので、気になる人はぜひ金屏風展と併せてどうぞ。