江戸絵画が好き!

屏風は琳派、襖は京狩野、掛け軸は若冲、仏像は慶派

荒ぶる風神雷神に打たれる「退官記念 手塚雄二展」

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すごい屏風絵があると聞いて、東京芸術大学美術館の手塚雄二展に行って参りました。
芸大の日本美術学科の教授だった手塚さんが退職されるということで特別に開催されたようです。なんと無料!

圧巻の「風雲風神」「雷神雷雲」屏風

手塚氏の作品についてなんの見識もない私ですが、会場の一番奥に展示されていた目玉、「風雲風神」「雷神雷雲」屏風の話にいきなり行ってしまいましょう。

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これは…四曲二双?? 屏風絵で最もよく見るのは六曲一双ですが、屏風が2つ(一双)ではなく4つある!
それによって、懐かしのパノラマ写真のような横に長ーい画面が展開されているのです。
そして、その左右両端に描かれている風神、雷神の顔がでっかい! 顔のみのアップで、全身どころか上半身も入りきっていません。
さらにさらに…あれ? 風神が左で、雷神が右
風神雷神屏風の配置ってそうだったっけ?

スマホを取り出して、俵屋宗達風神雷神屏風を写真で見てみました。
やっぱり、こちらでは風神が右で、雷神が左。
(写真は京都国立博物館で展示されていたレプリカ)

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その後、尾形光琳によって模写されたもの(襖絵)もそうですし(同レプリカ)、

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酒井抱一、鈴木其一(これはホンモノ、襖絵)のものも、琳派の巨匠たちはみんなそう描いていますね。

www.fujibi.or.jp

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他に私が見たことがあるのは、安田靫彦風神雷神図屏風ですが、左右は同じだったような気がします。
手塚版は「これまでの風神雷神図とは違うものを作ろう」と考えて、二神の配置を逆にしたのでしょうか?

しかし、そんなことは気にならないほど、この屏風絵はすばらしい。
スペクタクルです!ロックです!パンクです!

「分かる人には分かる」大胆なトリミングがされている絵でもあって、これまで伝統的な日本画を見てきた人ほど楽しめる。風神は肌の色がベージュ、雷神はやっぱり緑系なんだとか。それぞれ持っているアイテムとか。

風神=首の周りに布のようなものがあるのは、あれねあれ…。空気入れてプシューって風を出すやつ=風袋
雷神=屏風絵と同じ用に太鼓を背負っているし、手に握っているものは、あれねあれ…。鼓のような形をした握りしめてピカーッって電力を出すあれ=太鼓のバチ

などなど。

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現代の作品なのでおかしくはないのですが、やたらと二神が立体的でCGのようで、その分、迫力があります。
まるで「進撃の巨人アニメ版。
ひとしきり、まさに雷に打たれたように立ち尽くして鑑賞して、その展示室を回ると、下図がありました。

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そこには京都・三十三間堂の木彫刻、風神雷神のスケッチが。そうか…国宝は国宝でも宗達ではなく、こっちだったか! だから立体的なのですね。

先月、京都国立博物館に行ったとき、目の前に三十三間堂にも寄ろうと思ったのですが、ちょうど修学旅行のバスが数台やってきて、人が多い中で見るのは嫌だなって、やめちゃったんですよね。見ておけばよかった…。
そして、風神が右で、雷神が左というのも、この彫像になぞらえるとそうなるんでしょう。

と思ったら、こんなニュースも。

mainichi.jp

もう左右どっちでもいいや。ワタクシ、BL(ボーイズラブ)もたしなみますが、特に右左にはこだわらないタイプです。

表現もスペクタクルかつスタイリッシュで、雷神が放つイカヅチは分かりやすい雷の線で、風神の出す風は真四角の金箔紙(銀箔も?)で表現されています。
タイトルにあるとおり、風神雷神のほかに画題となっているのは「雲」であり、その表現もパーフェクトという感じです。二神の間には雲だけが描かれた屏風もあります。

墨のグラデーションを効果的に使った雲の表現という点では、横山大観の「龍蛟躍四溟」を連想しました。

spice.eplus.jp

これは、不勉強な状態でざっくり言うと、大観の絵とは、「どちらかというと“静的”な作品を描く画家が、荒ぶって“動的”な絵を描いた」という点でも共通しているような気がします。

手塚氏の他の作品は、自然の中の風景や静止した人物が多いようなので…。
例えば曾我蕭白川端龍子のような、動的な作品が多い画家が描くより、溜め込んでいたパワーが一気に解き放たれたような勢いがありますよね。

古典的題材を現代美術の技術を使ってリボーンさせるという点では、村上隆の五百羅漢図を連想しました。

www.mori.art.museum

他に、今回の展示は“完成品”の数は少ないのですが、明治神宮内陣に奉納された四季図屏風の下絵など、「ぐわぁ、うまい」と絵の前で唸ってしまう作品がいくつかがありました。多数展示されていた下図や素描からは、日本画の制作過程を垣間見ることができました。

www.nikkei.com

でも、とにかく、この風神雷神図がかっこいい! 
展覧会は無料のうえ、高品質印刷のパンフレットももらえるので、それを屏風絵のところだけ切り抜いて、厚紙に張って飾っておこうと思います。

ふだんは島根県の今井美術館に収蔵されているようです。

www.imai-art.jp
行ってみたいな。この絵の前になら、3時間ぐらい座っていられそう。

東京での公開は明日まで! 風神雷神の迫力に打たれに、ぜひ行ってみてください。