美術展レポ-東京近代美術館「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」
(特にこの絵が見たいっていうお目当てはないんだけど…。)
と思いながらも、気になって、会期終了間際、「窓展」に行ってきました。
会場には「窓」をモチーフにした絵画、オブジェ、写真、ビデオアートなどが多数、展示されていました。
私にとっては知らない作品も多く、新しい出会いがありましたよ。
改めて考えてみると、「窓」とは何か?
室内から外の世界がのぞけるもの。美しい景色が見えるもの。時に恐ろしい光景も見えるもの。開ければ外の空気や雨風、その他のいろんなものが入ってくるもの。
借景という言葉もありますし、現代はPCのモニタ上にたくさんの窓(ウィンドウ)を開ける時代。いろんな窓を同時に開いてマルチタスクをする。
いずれにせよ、基本は窓からのぞきたいからのぞいているんですよね。窓の中に自分にとって楽しいもの、うれしくなるもの、美しいと感じるものがあれば、うれしくなる。
窓は、絵の中に描かれるだけでなく、四角の支持体に描かれた絵画自体がもうひとつの世界を見せる「窓」だと言える。
そんなアルベルティ(ルネサンス期の文人)の言葉から、この展示会は始まっていて、そう考えると、すべての絵画がこの展覧会に参加する資格があるということになってしまいますが、そこは観念としての窓ではなく、比喩表現でもなくストレートに「建物の窓」を描いた作品が並んでいました。
ポスターにもなっている「待つ」を描いたマティスの言葉が面白かったです。
彼は、窓の中と外を同じ空間ととらえ、ある程度、写実的な形をとりながらも、その境界線をないものとして描いたそう。
「待つ」では、左側の女性の手が窓枠をつかみ、内側と外側をつないでいる。
ここで、そのマティスに影響されたというデュフィの絵「ニースの窓辺」も、去年見たばかりなので、連想しました。こちらも窓の外の美しい海岸が、部屋の一部のように描かれていますよね。野獣派=フォービズムらしいベタっとした色彩であまり陰影をつけずに描くから、そう見えるのでしょうか。
キルヒナーのこの絵もよかったです。
窓辺に置かれた紫煙は今にも窓の外の世界へ流れ出していきそう。いや、ちがう。真上に立ち上っているわけだから、煙を描くことによって空気中に室内と室外の境界線を引いているのもしれない。面白いですよね。うまいなぁ。
しかし、油絵は少なかったですね。正直、もうちょっと見たかったな。
また、例によってざっくりとしたことを言いますが、窓の絵というと、西洋美術ファンは、まずフェルメールの室内画を思い浮かべる人が多いはず。しかし、その後、印象派の画家がキャンバスを窓の外=屋外に持ち出して、直接、外の世界(窓を介しない世界)を描いた後に、フォービズムのマティスやデュフィが再び室内に戻って窓辺の絵を描くようになったと考えると、面白いですね。もしかすると、そこから屋内屋外の境界があいまいになってきて、シュールレアリズムの絵につながってくるのかな。
美術館の前庭に設置された藤本壮介さんの「窓に住む家/窓のない家」も、マグリットやデ・キリコ、またはダリの絵に出てきそうな構造物だと思ったので、ぜひ、この展覧会で、シュールレアリズムの絵も見たかったなと思います。
古賀春江の「窓外の化粧」なんて、この展覧会にぴったりだと思うんですけどね。近美のコレクション展には古賀の代表作である「海」も展示されていたので、並べて見たかった。まぁ、これは単純に私が“春江推し”だというバイアスがかかっているんですが…。
他は、現代美術の作品が。こちらは大きいものも多く、充実していました。
その中でも、私はラウシェンバーグの立体作品が好きでした。美術書などで見ただけですが、ラウシェンバーグのオブジェ作品は面白いなぁと思いますが、正直、平面のフォトコラージュ(リトグラフ等)は、実物を目の前にしてもピンと来たことがなかったのです。しかし、同じコラージュの手法でもこれはいい! こんなおしゃれなアート。部屋に飾っておきたい!
でも、常時、ライトアップしていないといけないから、省エネ的にはダメか…。
ビデオアートでは、ポーランドの作家・リプチンスキの「タンゴ」が面白かったです。
狭い一室にボールを追いかけてきた少年が窓を乗り越えて入ってくる。そこから、赤ちゃんを抱いたベビーシッターや全裸の女性など、いろんな人が部屋に現れて、最終的に36人もの人が狭い空間でそれぞれの用を足すのですが、彼らは誰も相手のことが見えていない。認識していない。
おそらく人物たちの生きる時間か空間かがずれていて、それが何層にも重なっているんですよね。パラレルワールドを同時にいくつも透視しているような気持ちになります。
CGがない時代なので、撮影したフィルムを切り張りしたそうですが(たいへん!)、これで米アカデミー賞短編アニメ賞を受賞。人間味あふれる作品というか「みんな好き勝手してる!」というおかしさがあり、今回の会場でも笑いが漏れていました。
ということで、この「窓展」のマイベスト3は
1)キルヒナー「日の当たる庭」
2)リプチンスキの「タンゴ」
3)ラウシェンバーグ「スリングショット リット#5」
でした。
さて、ここから少し連想タイム。
みなさんは窓というと、どの絵を思い出しますか? もし、これ!というのがあったら、ぜひ教えてください。
私は最近見た絵だと、葛飾応為の「吉原格子先之図」(太田記念美術館)かな。窓と言っても、吉原遊郭の格子窓ですけれど。(写真は購入したポスター)
インスタレーションでは塩田千夏さんの「内と外」。去年、森美術館で見ました。
これはベルリンの壁が崩れた後、再開発が進む中で捨てられた窓を収集したものだそうで、それが重なり連なっている光景は、無機物なのに人間と生活の存在を感じさせました。
そして、1/26まで東京写真美術館で展覧会が開かれていた写真家・中野正貴さんの「東京窓景」も、窓をモチーフにしたアートですね。
この1月は、不思議なことに、私のアート鑑賞も「窓」がキーワードになっていました。
あ、そう言えば、先日立ち寄った椎木彩子さんのイラスト展も「窓辺の物語」でした。キャンバスや紙ではなく、板に直接描いた絵が印象的です。
公益財団法人 調布市文化・コミュニティ振興財団 椎木彩子展 窓辺の物語
ちなみに私の家の窓からは、マンションやアパートが立ち並ぶ平凡な住宅街の風景しか見えません。つまんないな。いつか、見晴らしがよかったり、街行く人が見下ろせたりする、ナイスビューの部屋に暮らしたいなぁ。